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[ 潤子先生の小説・エッセイ ]

『大切な置土産』

『大切な置土産』

わが人生への鎮魂歌? 発行:北展舎

ある夏の日の午後。
一人の少年が汗を拭き拭き私の教室にやって来た。
その日の授業の準備をしていた私に”勉強がしたい”と一言。
突然のことで驚く私。
とにかく、教室に招き入れる。
「名前は?」「生田 りょう」
「学校は?」「××中学三年生」「今、学校帰り?」「・・・・・」
なぜか返事につまる彼。
「勉強したいなら入学手続きをしてもらわないといけないの。月謝のこともあるしね。ご両親はご存じなの?」
私の説明に彼は黙ってうつむいたまま。
「悪いけど、ご父兄の方と一緒に出直して下さいな」
彼は気まずそうに帰って行った。
それから一週間ほどして、紳士的な父親とともに入塾の手続きにやって来た。
「では、明日からどうぞ」と、言う私にペコンと頭を下げ、
「俺、マンツーマンがいい」「ええ?」
びっくりして首を傾げる私に父親が小声でささやくように、
「この息子、長い間いじめにあって学業がかなり遅れているんですよ。
一般の生徒と一緒ではついて行けないことを心配しているんだと思います」
せっかくだけどマンツーマン希望の生徒さんは受け入れられないと説明すると彼が父親に、
「ここでしか勉強しないよ」
吐き捨てるように言ってスタスタと出て行ってしまった。
「わがまま息子に育ててしまって、おそらく迷惑をおかけすると思います。思い余るようでしたら退塾させて下さって結構です」
父親は頭を下げ帰って行った。×月×日
今日から塾生となったりょう君。
きちんと午後六時十分前にやって来た。
教室と講師を紹介しようとした時、
「俺、あんた以外の人には教わらないよ」
「ええッ?」
「あんたに教わるんだよ」
「あんたって、私のこと?」
「そうだよ」
と、すまし顔。
あわてふためく私。少し落ち着いたところで、
「悪いけど私は講師じゃないの。経営してるだけ。それに君に”あんた”なんて言われる筋合いはないわ」
この生意気さに腹が立っていた。
すると彼は形相を変えて私に言った。
「逃げんなよ!!」と叫ぶように…。
「逃げるなって?それどういう意味?」
「逃げてるじゃん。俺があんたを指名してんのに…」
「お断り!だいたい生意気すぎるわ」
私もむきになる。
お互い背中を向け合って少時、沈黙が続く。
A教室もB教室もすでに授業が始まっている。
すると彼の方から口をきいて来た。
「生意気言ってゴメンナサイ」
「わかればいいのよ。私も少し言い過ぎたかも。ゴメンね」
心なしか彼の表情がゆるむ。
「悪いけど、一晩返事を待ってくれない?明日必ず返事するから」
「わかった、とにかく俺は引き下がらないから」
の言葉を残して帰って行った。
その夜、彼が吐き出すように言った一言。
「逃げんなよ」が、頭にこびりついて離れなかった。
まるで走馬燈のごとく、私の脳裡をクルクル廻って苦しめる─。
「よし」
私は腹をくくった。
彼と一緒に勉強しながら彼を教えてみよう。
私にとっては一大決心だった。
大学生の時、一応教員免許は取得しておいたものの、生かすチャンスがなく、人を教えることの経験は無かったからだ。
腹をくくった以上、翌日から死にもの狂いで勉強の仕直しが始まった。
予期しなかった、私の第二の人生の出発点に立たされていたのである。×月×日
いよいよ彼との二人三脚。
猛勉強の始まりである。
君は小三からいじめにあっていても、一日も休まず、卒業式には皆勤賞ものがと聞いた。
そんな強靭さを持ってるならきっとこの六年間の遅れくらい、挽回できるよ。
二人でがんばろう。
明日から始まる夏休み。
この四十日間で小三から小六までの算数国語をマスターしてしまう計画を立てる。
それは日中に済ませ、夜は中一の数学と英語の一般授業に参加。
今夜もすべてが終了後、どっと疲れが出て目まいがした。
彼の顔を見ると、ギラギラと目が輝いている、若さっていいなあと思う。
「がんばれそう?」と、聞いたら、「OK!!」のサインを寄こした君。
頼もしいなあ、と思ったよ。

正直、こんなことは至難の技だった。
私も彼も短期間に習得することが山積していて、それがプレッシャーとなって、重く背にのしかかる。
それでも、歯をくいしばって前進する君の姿を見て、私も必死にならざるを得なかった。
血の出るような努力。
誰にも吐けない苦しみ・・・・・・の中で、あっという間に夏休みが終わった。

×月×日
勉強に明け暮れた夏休みが終わった。
がんばった甲斐あって、休み期間中に小六までの学力は大方身についた。
ただただ努力の結集だと褒めまくる。
二学期が始まってみると、彼は胸を張って登校できるようになる。
そして今日、彼はびっくりするような言葉を口にした。
「高校に行きたい」と─。
正直、私には戸惑いがあった。
でも彼の意志はすべきだと思って、「担任の先生に相談してみなさい」と切り出してみた。
「担任の先公なんて相談できっこない。俺は嫌われ者だから。無駄無駄!」
「無駄ってことないでしょ。進路相談の先生でもいいし・・・・・・」
「・・・・・・」
彼の口から返事は返ってこなかった。
この時期になると、三年生の生徒のほとんどが希望校も決まり、それに向かって最後の力を勉学に注いでいる。
そんな雰囲気の中で、彼も受験してみたいと思えるようになったのだろう。
できることなら私もいかせてやりたい。
何が何でも進学させてやりたいと願った。

×月×日
夕方、彼の父親が塾に来た。
彼の進学のことである。
「息子が進学したいと言い出して仰天しましたよ。今の力で受験させてくれる学校があったらぜひにでも受けさせたいのです。」
「私も同感です。でも担任の先生にご相談なさって下さい。それが先決だと思われますので…」
私と父親との会話に、耳を傾けながら彼は机に向かっている。
そんな彼を後にして、父親は足早に帰って行った。
「もう少し早く勉強に目ざめていればよかったのに・・・・・」
ひとり、こうつぶやく私・・・・・

「ただいまァ!!」
まるで自宅に帰った気分で教室にやって来た彼。
最近早退することもなく、授業を最後まで受けてくるようになった。
いじめもほとんどなくなっていると聞く。
真面目に授業に取り組むようになったことを、周囲が認め始めたからだろう。
「今日さあ・・・・・」声のトーンが高い。
「どうした?いいことでもあったの?」
「うん、先公がさあ、真剣に進学したいならそれなりの高校があるぞ、だってさ。要するに何とかなるみたいだよ」
「よかったねせ、一歩前進だね」
「うん、だけど心の冷たい先公だから、嬉しさ半減だよ。好きになれない奴だもん」
「その言いぐさは無いでしょ。君が先生を好きにならないから先生の方も、きっと君のこと好きじゃないわ」
「べーつに、あんな奴に好きになってもらわなくたって平気だよ」と、すっかり冷めている。

次の瞬間、私は机の引き出しから真新しいノートを一冊、取り出して彼に渡す。
「今日から毎日、一行でいいから先生に手紙文を書いて渡しなさい」
「担任の先公に?」
「そう」
「嫌だよォ」
「書きなさい。これは命令よ」
「どんなことをどんな風に書くんだよォ」
「先生、どうしても高校へ行きたいので何とか、力になって下さい。返事下さい」
私が見本を書くと、プンプンふくれっ面しながらも鉛筆を走らせる。
果たして先生の手に渡るだろうか。半信半疑の私はその夜、寝つかれなかった。

翌々日、彼は息を弾ませ、教室に飛び込んで来た。
「先公から返事が来たよ」
満面笑顔でノートを広げて見せてくれる。
「ほらほらこの赤ペンの字・・・・・」
「進学する気になったなんてスバラシイぞ!!最後まで死ぬ気でがんばればお前に合った高校見つけておく」
担任の先生の、この赤ペンの字が、まるで金文字のように光ってまぶしい。

「学校の先生はね、放課後も山のように仕事が残るのよ。その合間をぬってコメントを下さるなんて大変なことなの。
感謝しなくっちゃね。いい先生じゃないの。先公なんて言ったらバチが当たるよ」
「テヘヘ」
照れ臭そうに笑いながら、
「今日も先生に書いちゃおうかな」
ニヤニヤしながら鉛筆を走らせている。
何を書いたかは知らないが、先生と心がつながったような気がしたのだろう。
とにかく、うれしそうに書いていた。

彼と二人三脚でがんばった七か月。
彼は立派に高校受験にパスし、「先生に出会えてお世話になったこと、一生忘れません」
と、メモを残して私の元を去って行った。
彼が去ってからの毎日は長く、片腕をもがれた気がして、立ち直るのに時間を要する私だった。
全寮制の高校なのでほとんど会えることもなくなった。
一人になった私は夢中に勉学に励んだ。
人に頼られる講師になるために。
りょう君に褒められる講師になるために。

そうして月日が流れるうち、残る私の人生に一筋の道が見え始めたのである。
「心を豊かにする教育」
これこそが私の求めている道だと思った。
すぐさまフランチャイズの塾を脱会。
自分らしい塾へと方向を変える。
進学塾から心を育む塾に、徐々に切り替えたことによって、教室の中の空気が一変した。
怒り、悲しみ、楽しみをそれぞれに抱えてやってくる子どもたち。
それらに耳を傾けることによって、私の心まで育てられていくのだった。
日々、小走りにカタカタ鞄を鳴らして来る子どもたちとの楽しいトークをコラムにして、地方新聞に載せて頂くこと十年余り。
とても好評で、今ではインターネットのブログにものせることでほほえましいコメントをもらっている。
私にこんなに素晴らしい生き甲斐を与えてくれたのは、りょう君という一人の少年だった。

お陰で古希を迎えた今も、当時の教え子たちの二世が学びに来てくれている。
今なお、現役でいられることがこの上なく嬉しく、感謝の一言である。

りょう君へ
君が私の元を去ってどれくらいの日が過ぎただろう。
高校を卒業して立派に就職もできたと報告を受けた時、本当に嬉しかった。
その後、機会があって君の職場を訪ねたが、もう君はそこにいなかった。
再会を楽しみにしていろいろな話をしたかったのにアポなしで出かけた私が悪かったと思う。
あれから、塾の方向性を変えたんだよ。君が私に吐き捨てるように言った言葉。
「逃げんなよ」
この一言。
私にとって非常に厳しかった。
自分に気づかずに、いつもいろいろなことから逃げていたことに気づかされたから。
もう逃げないと心に誓って、君と二人で勉学に勤しんだ日々を決して忘れない。
君は長い間、いじめという闇の中に閉じ込められ、そこからみごとに自力で脱出に成功し、高校進学という大きな夢を果たしたね。
私は進学一本だった塾から、心の育成塾に切り換えられたわ。
これもみーんなりょう君、君のお陰だよ。今の私はね。
昔のようにキリキリしてないよ。
穏やかそのものだよ。なぜって?
教室に通って来る子どもたちから抱えきれないほどのパワーをもらっているから。
教室の中の和やかな雰囲気をりょう君に見てもらいたいなあ。
勉強しながら子どもたちとの会話のラリー。
それをコラムにしてインターネットのブログに載せてるよ。
“潤子先生のトークトーク”で検索すると出てくるから読んで欲しいな君に!!
私の幸せぶりがわかってもらえると思うよ。
私は君との出会いを決して風化させない。だから君も私との出会いを風化させないでね。
私の教室の今は、りょう君の置土産が詰まってる。
「逃げんなよ」の言葉もね。
この一言はね、私の座右の銘になってるんだ。
とにかく、元気でね。
そしていつか二人で語り合いたいね。

どこからか、風にのって君の声が・・・・・

「どんなにいじめられていても決して逃げることはしなかったよ
これが僕なんだ」と。

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