[ 潤子先生の小説・エッセイ ]
『舅への手土産』
『舅への手土産』
今は亡きあの人へ伝えたい言葉? 発行:鎌倉新書
梅雨明けのある日の午後、
「ちょっと付き合って欲しいんだけど」
私はハイ、と返事を返しついて行きました。
そこはお洒落な婦人服店でした。
「あのマネキンが着ているブラウス、可愛いと思わないかい?」
目をパチクリさせる私に買ってくれました。
綺麗なピンク色のノースリーブのブラウス。
私に素晴しく良く似合って、それを着るととても幸せな気分になるのでした。
ね、お舅さま、この事、覚えていらっしゃいますよね。
それは私がお舅さまの一人息子の許に嫁いで二年目の夏でした。
そのピンクのブラウスを着るとお舅さまはおっしゃいました。
「実家のお父さんもこのブラウスをご覧になったら、きっと君に着せたいと思われると思ってね」
そしてお舅さまはつけ加えて仰った。
「君たちの結婚式の時、君のお父さんがね、君が産まれた時、念願の女の子だったので余りのうれしさに産まれたばかりの君の額に、ずーっと頬ずりしてたって。そんな愛娘を僕の家の嫁に迎えたんだから、余程大事にしないと申し訳ないからね」実の娘のように可愛がって下さったお舅さま、今頃天国でどんな風にお過ごしですか?
今年の夏、三十三回忌ですよ。
ピンクのブラウス、今もって健在です。
買って頂いた時の私は二十七歳、今では七十五歳。
この年でピンクのブラウスで外出はちょっぴり気がひけますが、でも家の中で楽しんで着てますよ。今だって結構似合っちゃってますから。ウフフ・・・
でもね、背中がすこーし透けてきてるんですよ。五十年も愛用してるんですから。
私が召される時、このブラウス、お舅さまへの手土産にします。 楽しみに待っていて下さい。そして、お舅さまにどうしても伝えたい事があるのです。お舅さまは会う人ごとに「これ僕の娘です」って仰って下さった事、本当に嬉しかった当時の気持ちを最後まで伝えられませんでした。
今、やっと伝えられました。心からほっとしています。
梅雨明けのある日の午後、
「ちょっと付き合って欲しいんだけど」
私はハイ、と返事を返しついて行きました。
そこはお洒落な婦人服店でした。
「あのマネキンが着ているブラウス、可愛いと思わないかい?」
目をパチクリさせる私に買ってくれました。
綺麗なピンク色のノースリーブのブラウス。
私に素晴しく良く似合って、それを着るととても幸せな気分になるのでした。
ね、お舅さま、この事、覚えていらっしゃいますよね。
それは私がお舅さまの一人息子の許に嫁いで二年目の夏でした。
そのピンクのブラウスを着るとお舅さまはおっしゃいました。
「実家のお父さんもこのブラウスをご覧になったら、きっと君に着せたいと思われると思ってね」
そしてお舅さまはつけ加えて仰った。
「君たちの結婚式の時、君のお父さんがね、君が産まれた時、念願の女の子だったので余りのうれしさに産まれたばかりの君の額に、ずーっと頬ずりしてたって。そんな愛娘を僕の家の嫁に迎えたんだから、余程大事にしないと申し訳ないからね」実の娘のように可愛がって下さったお舅さま、今頃天国でどんな風にお過ごしですか?
今年の夏、三十三回忌ですよ。
ピンクのブラウス、今もって健在です。
買って頂いた時の私は二十七歳、今では七十五歳。
この年でピンクのブラウスで外出はちょっぴり気がひけますが、でも家の中で楽しんで着てますよ。今だって結構似合っちゃってますから。ウフフ・・・
でもね、背中がすこーし透けてきてるんですよ。五十年も愛用してるんですから。
私が召される時、このブラウス、お舅さまへの手土産にします。 楽しみに待っていて下さい。そして、お舅さまにどうしても伝えたい事があるのです。お舅さまは会う人ごとに「これ僕の娘です」って仰って下さった事、本当に嬉しかった当時の気持ちを最後まで伝えられませんでした。
今、やっと伝えられました。心からほっとしています。
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